スタートは秩父札所17番 実正山定林寺(じっしょうさん じょうりんじ)
『あの花』の聖地、長享番付け1番・定林寺からスタート
自分が住む秩父札所34ヵ所。どんな魅力があるんだろう?とボチボチ巡ってみることにした。やっぱりはじめは一番の四万部寺からと思っていたが、天気が悪いから、などとグズグズして、家から徒歩5分、すぐ行ける17番からのスタートにした。
とはいっても、この17番をスタートにする運命的な理由も調べているときから感じていた。『長享番付1番』。長享番付は秩父33ヵ所霊場が成立し、巡礼が行われていたことを記す最も古い文献で、室町時代に長享2年の日付けで1番定林寺から33番まで記されているそう。ちなみに、後で真福寺が加わって34ヵ所となった。
知らなかったとはいえ、『あの花』の聖地であるけど地味な近くの寺、という認識しかなかった17番が、かつての1番だったということに、ひどく感激した。でも、どうして旧市街エリアでもはずれにある、定林寺が1番?
調べてみると15世紀に秩父神社(妙見宮)のそばに林家の持寺として創建され、江戸後期に現在の桜木町に移された。林家は妙見宮の触役(ふれやく)という仕事をしていた。広報のような役目かと理解しましたが...。妙見宮との関わり合いで1番になったのでは?という説もあるようです。
定林寺の見どころ『観音堂』念仏回廊
観音堂は質素な四間四面の宝形造り。注目したいのは裏側にも回廊がある念仏回廊という造り。
緑の房が見えますが、これは本尊の厨子とつながっていて、これに触れながら、「南無観世音菩薩」と3回唱えるとご利益があるそうです。板の裏側は本尊が安置されている場所になるのでしょう。
さて、観音堂正面。彩色された天井や彫刻もすっかり褪せてしまっていますが
よ~く見ると、立派な彫刻があります。
お堂の中を覗くと、なんだかまた感動しました。ここは住職がいない寺ですが、桜木町会がお世話しています。きれいにお掃除されて、闇の中に観音様が輝いて見えました。ここだけが別空間かのような静寂を感じます。
厨子に安置されているのは本尊の十一面観音。1593年作とあるそうです。寄木造りの立像で、高さ55cm。ぜひ、見てみたいものです。
観音霊験記からの絵と霊場の由来。観音霊験記は百観音霊場を描いた錦絵で、秩父・坂東・西国とあります。各霊場の縁起やガイドブック的な要素もあります。
定林寺の名の由来など詳しい内容は
観世音霊験記 秩父巡礼|城西大学 水田美術館|Josai University Mizuta Museum
定林寺のみどころ2ー悲しい由来を持つ百観音梵鐘
そして日本百観音の本尊を浮彫りにした銅鐘。江戸末期に焼失しましたが、1758年に作り直しされたそうです。県の指定文化財になっています。
どこの観音様かも記されています。この鐘が作られた由来は悲しい話。昔は貧しさのために生まれた子供を間引きで寺に埋める、などという風習がありました。
臨月の女が巡礼中に出産したが、赤子を連れて巡礼できないということで、定林寺の裏の沼に子を捨てて、巡礼を続けた。巡礼を終えて家に帰ると、捨てたはずのこどもが土間に立っていて、そばに定林寺のお札があった。女は自分の行為を悔いて、それを償うために梵鐘の奉納を発願し、長い年月をかけてそれを果たした。(秩父札所・観音霊場への誘いより)
そういえば、私が小学生の頃までは、寺の裏手は公園ではなく、沼がありました。小さな川も流れていたような。沼にはゴミがいっぱい投棄されてたなあ、アメリカザリガニを取った記憶もあります。木が鬱蒼としていて、ちょっと怖い所でもありました。
定林寺は『あの花』の聖地としてが一番有名かも
『あの花』の絵馬、納経所で売っています。私が行ったときにも、一人でレンタサイクルで来ていた男子が熱心にこの絵馬を見ていました。まだまだ聖地としても健在なんですね。
あの花は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』。主人公たちが集まっていた場所として登場します。
『あの花』マンホールの蓋。寺の階段上り口にあります。市内6カ所に『あの花』マンホールの蓋があるそうで、その資料が納経所で配布されていました。
桜木町会で運営されている納経所。
寺の参道は一般の人家。
巡礼に来る人々
私がいた1時間ぐらいのうちに4組の巡礼者が訪れました。中年の女性二人はお経が背中に書かれたTシャツを着ていて、観音様の前でお経を唱え、納経所に寄って足早やに去って行きました。
次はレンタサイクルに乗った20代の男性一人。たぶん、『あの花』の聖地巡りか。
そして、50代ぐらいの男性一人。彼は階段前で手を洗い、まずは鐘を突きました。そうそう、鐘は参拝する前に突けと鐘楼にも書いてありました。それから観音様の前で般若心経を唱えていました。
最後は20代のカップル。観光ついでに立ち寄ったという雰囲気でした。
晩夏の午後、意外に来る人いるんだなあ、という感想、そしていろんな思いで訪れているんだなと思いました。
定林寺詳細